無農薬でお茶を作りたい

column

こんにちは。静岡県でお茶農家をやっている曽根です。連載「お茶に集う仲間たち」では、僕の新しい挑戦を皆様にお伝えしています。

前回、少しだけお話ししましたが、僕は今、近所にある「耕作放棄園」の開拓に挑戦しようとしています。今日は、具体的にどのようにして、その場所を茶畑として復活させたいと思っているかについて、お話ししたいと思います。

 

●お茶農家を続けるために必要なこと

僕の家は静岡県で五代続くお茶農家です。静岡県ではこれくらい長く続くお茶農家というのは、めずらしいものではありません。そして、静岡のお茶農家同士は、みんなで協力しながら地域の産業である「お茶」を守っています。

僕は今、仲間2人と一緒に「chabashira:チャバシラ」という日本茶ブランドをやっています。しっかりとブランディングをしての製品づくりやイベント出店など、お茶農家として新しい挑戦を続けています。「chabashira」を立ち上げたのは2016年。それ以前の約9年間は、地域のお茶農家20軒ほどで作る「協同茶工場」でお茶を製造していました。販売は、販売担当の組合長の仕事でした。

お茶農家としてしっかりと生計を立てて、長く続いていく地域の産業として守っていくためには、安定的に品質と収穫量をキープしていくことが必要になります。そのために、大規模な面積のお茶作りを行うには、機械の導入や農薬の使用は必要不可欠なものです。そのようなお茶作りを否定する気持ちは、僕にはまったくありません。むしろ、そこでしか生まれない「お茶の味」もあると思っています。

「chabashira」を始めてから、自分たちで販売も行うようになり、僕たちのお茶を買ってくれるお客さんたちと、直接話ができる機会がどんどん増えていきました。畑でお茶摘みイベントを行ったり、この「& magazine」の発起人でもある村松さんのアトリエで、お茶の試飲会をさせていただいたこともありました。

その中で、多くのお客さんから尋ねられたことが「これはオーガニックですか?」「カフェインは入っていますか?」などということでした。

なるほど、今はみんなそういったことをすごく気にかけているんだなと思いつつも、お茶農家を長くやってきた経験から農薬の必要性も実感している身としては、なんとも気持ちがモヤモヤする感じがありました。

「chabashira」を始めたことで聞くことができたお客さんたちの要望の声に応えたい、でも、一般論として浸透している「農薬は人体や環境に悪いもの」という漠然としたイメージには誤解が多いということも伝えたい。お茶農家をこれからもずっと長く続けていくためには、その両方のことが必要なのではないかと思うようになりました。

 

●人も虫も「旨み」が大好き

日本独自の「お茶=煎茶」が、世界中のさまざまなお茶と大きく異なる点が、「旨み」が強いことです。これは、日本の「出汁文化」とも関係していると思いますが、日本人は「旨み」が大好きなんですね。

僕たちお茶農家は、「旨み」をお茶に与えるために、その素となる肥料をお茶の木にあげています。例えば、魚カス(カツオ節のようなもの)やゴマの搾りカス(ゴマ油の製造過程で出るもので、これによって土の微生物が非常に活性化する)、肉骨粉(牛由来の肥料)などが代表的なものです。

これは言ってみれば、お茶の味を畑で作っているようなものなのです。出汁をお茶の木に与えているのですから。栄養たっぷりの葉っぱを作ることで、濃厚でコクのある煎茶になるというわけです。

でも、こんなに栄養たっぷり旨みたっぷりの葉っぱが畑に出しっ放しになっていれば、人間だけではなく、虫たちもたくさん集まってきてしまいます。「わー、なんだこの葉っぱはー、めっちゃおいしいー、しかも食べ放題だー」となってしまうのも当然で。「なんてこった!ちょっと待ってくれ!苦労して育てたおいしい葉っぱを!」と、お茶農家さんたちと虫たちの格闘が起こるわけです(笑)

僕の住む地域にも、無農薬でお茶を作っている人はたくさんいます。でも、どうしても味はあっさりとしているものが多いんです。

畑に旨みを与えれば虫を近づけないために農薬が必要で、でもそのおかげで濃厚でコクのあるお茶が生まれます。一方、それをしなければ味はあっさりしてしまいますが、無農薬のお茶を作ることができる。このバランスを、何をどう選択して保っていくのか、それが僕の課題で、これから向き合っていかなければいけないことだと思っています。

 

●無農薬のお茶作りに挑戦したい

僕たちの茶工場と40年来の付き合いがあるお茶問屋さんは、僕たちの作るお茶の、濃厚でコクのあるまろやかな味を気に入って買ってくれているので、やはり今まで通りのやり方でお茶を作っていきたいと思っています。

ただ、直接お客さんたちから聞いた声に応えられるような、「無農薬」でのお茶作りにも挑戦してみたいという気持ちは、これまで「chabashira」を続けてくる中で、ずっと考えていたことでもありました。静岡は海外からの観光客も多い地域なので、そういう方たちの中にも、オーガニックを選ぶ人は多いのではないかと思いました。

少しの量なら、自分でもできるかもしれない……。そう思っていた矢先、前回の記事でご紹介した「耕作放棄園」のことを思い出したんです。「ここで、無農薬のお茶作りに挑戦してみよう!」そう思って、早速あの場所を再び譲り受けることに決めました。

この「耕作放棄園」で作る「無農薬」のお茶には、いろいろな可能性があると、僕は期待して今からとてもワクワクしています。「旨み」重視の煎茶にこだわらず、香り重視の発酵茶(紅茶)や釜炒り茶なら、むしろ肥料は少なくていいと聞きました。人によっては無肥料・無農薬の「自然農法」で作っているそうです。虫に吸われたキズが発酵し、甘い蜜のような香りのする紅茶もあるらしいのです。

今までの自分が学んできた煎茶とはまったく違う世界がそこにはあるようです。なんだかすごく、面白そうじゃないですか!

いつか、この「耕作放棄園」で採れたいろいろな味のお茶を、この連載を読んでくださっている皆さんに届けられたら最高だなと思っています。「無農薬」については、もっともっと勉強しなければならないことも多いのですが、幸い僕には、いろいろなことを教えてくださる、すでにたくさんの経験をもっている方たちが周りにいるので、助けてもらいながら頑張ろうと思います。

次回もまた読んでいただければと思います。どうぞよろしくお願いします。

 

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