遠方の人にも「ものづくり」に参加してもらえる仕組みを作りたい–【AND WOOL】オンラインサロン活動紹介–
こんにちは。【AND MAGAZINE.JP:アンドマガジン】の発起人でファッションデザイナーをしている村松啓市と申します。このマガジンをご覧いただいて、ありがとうございます。
「手仕事によるものづくりのすばらしさを伝えたい」そんな想いから、私は【muuc:ムーク】と【AND WOOL:アンドウール】という2つのブランドの運営をしています。【muuc】は、私が17年間続けてきたファッションブランドで、工場の高い技術をもった職人たちと一緒に特別な刺繍やニットの商品を作っていますが、一方【AND WOOL】は、ファッションが好きな一部の人たちのための服ではなく、女性も男性も子供もお年寄りも、すべての人に愛される製品をコンセプトにしています。
このコンセプトの背景には、どんな人でも「ものづくり」に参加できる仕組みと環境を作ることで、ニットを好きになってくれる人を増やし、私たちアパレルブランドが抱える深刻な「人手不足・後継者不足」の現場に少しでも担い手となる職人を増やしたいという思いがあります。
【AND WOOL】では3年前から、オンラインサロンを立ち上げて、非常に小さい規模ではありますが運営を続けています。今、ここに参加してくれている方たちが、少しずつ、ニットの担い手として私たちの製品製造や活動を支えてくれるようになっています。
今日はこの場を借りて、私たちのオンラインサロンの活動についてご紹介したいと思います。サロンメンバーの皆さんからもコメントを寄せてもらったので、最後までご覧いただければうれしいです。
●遠方の方たちからの「ワークショップに参加したい!」という声で始まったオンラインサロン
私たちは「手仕事のすばらしさ」「ニットの楽しさ」を伝える活動の一環として、これまで全国各地で1000回以上「手編み機のワークショップ」を開催してきました。
新型コロナウイルス感染拡大以降、思うようにワークショップの開催ができていないのですが、当時からよくいただいていた声は「また参加したいのでこの地域でワークショップを開催してください!」「遠方で静岡まで行くことが難しいのでまたこの地域にも来てください!」というものでした。
私たちが活動の拠点を置く静岡県の山間まで来ていただくことが難しいお客様たちの要望にできるだけ応えたいと思っていましたが、編み機の台数に限りがあり1回のワークショップに参加してもらえる人数を増やすことが難しかったり、少ないスタッフで全国を回っていたので開催頻度を上げることもなかなか難しかったりする状況にありました。
ワークショップに参加してくださる方の参加理由は、大半が「手編み機をやってみたかった」というものでした。そこでスタッフと話し合い、「オンラインを使って遠方の方とつながって、動画機能やライブ配信機能を使い、手編み機の使い方や編み方を共有することにチャレンジしてみよう!」ということになりました。
今でこそ、オンラインサロンや動画配信・ライブ配信は当たり前になりつつありますが、当時は2018年。私たちも手探りの中でオンラインサロンを立ち上げ、呼びかけに応じてくれた16名の方と、月額324円(※現在は年会費制に変更)でスタートしました。
●どんな人でも「ものづくり」に参加できるオンラインサロンを目指して
私たちのオンラインサロンの活動は主に、ニットのサークル活動・部活動のような感じで行っています。手編みや編み機などのニットに関する情報を交換したり、動画で編み方の共有をしたり、【AND WOOL】の活動の近況報告などもしながら、スタッフ・メンバーみんなでコミュニケーションをとっています。
さらに、どんな人でも「ものづくり」に参加できるオンラインサロンを目指して、実際に私たちの作品や製品などの制作を手伝ってもらったり、商品開発を一緒にやってもらったり、ワークショップにスタッフとして参加してもらったり。そのための技術も、共有しています。毎回オンラインサロン内で募集して、希望者が自由に参加できる仕組みにしています。
▼ニットウエディングドレスのパーツ製作
こちらは、たくさんのパーツをサロンメンバーに作ってもらって制作した「ニットウエディングドレス」です。編み方の動画をオンラインサロン内に公開し、どのパーツがいくつ必要かを伝えて、参加者を募りました。全国各地のメンバーから集まったパーツを組み合わせて仕上げています。
▼ニット製品製造のお仕事に参加
オンラインサロンのFacebookグループに編み方動画を公開し、実際の製品製造のお仕事をサロンメンバーに発注したりもしています。編み機をもっている方には、編み機を使った編み上げのお仕事を発注することもありますし、編み終わりを閉じる作業、はぎ合わせの作業など、手編みのお仕事を発注することもあります。
材料や製品のやり取りは宅急便で行い、連絡はすべてオンライン(人によって電話、メール、LINEなどツールは様々)で行っています。
▼編み物キットの新商品開発に参加
私たちの新商品開発にもサロンメンバーに参加してもらっていて、下の写真は、企画段階からサロンメンバーが中心になって商品開発を行い、初めて商品化が叶った「コットンベレー帽」の編み物キットです。
いろいろなアイデアを出してもらいながら、試作品を実際に使って手を動かしてもらい、出てきた感想や意見を商品に反映しています。
▼ワークショップにスタッフとして参加
現在のサロンメンバーは静岡県外の方が多く、静岡にある私たちのアトリエに来ていただくことは難しいのですが、逆に、私たちが静岡県外に出張してワークショップを開催するときなどは、近くに住んでいるメンバーにスタッフとして手伝ってもらうことがあります。
●オンラインだけで「ものづくり」を伝えられるのか?
編み機の使い方や編み方などは、「対面で直接やりとりをしなければわからないことや伝わらないことが多いのではないか?」と思われた方も多いかもしれません。私たちがオンラインサロンを始めた当初も、同じような不安をもっていました。
でも、実際にやってみると、動画やライブ配信をうまく使うことで、予想していたよりもずっとスムーズに、技術を伝えることができると感じました。何事もやってみなければわかりませんし、まだまだやれることはたくさんあると思っています。
今回の記事を書くにあたって、参加してくれているサロンメンバーにアンケートを実施し、「ものづくり」のサロンがリモートで運営されていることについて不自由に感じていることがないかを聞いてみました。
サロンメンバーSさん(神奈川県)
作業内容は動画を一時停止しながら何度も確認できますし、それでもわからないところはLINEのビデオ通話を使って細かな部分を教えてくださり、とても助かっています。連絡のレスポンスが遅いと感じたこともないので、比較的密に連絡を取り合えていると思っています。
サロンメンバーYさん(東京都)
新しい作業に取り組む時はちゃんと出来ているのかどうかが不安になりますが、わからない点は教えていただけるし、それほど不自由は感じません。
サロンメンバーAさん(和歌山県)
わからないことがあるときは、LINEのビデオ通話で作業について教えていただいています。どうしても電波状況等の加減で画面がわかりにくいことがあり、せっかく教えてくださっているのに申し訳ないと思うことはあります。
●どんな方がサロンメンバーとして参加してくれているのかご紹介します!
現在、オンラインサロンに登録してくれているメンバーは約50名です。一般的なオンラインサロン同様に「ROM専」の方もいらっしゃいますが、約半数の方がアクティブにものづくりに参加してくれています。
オンラインサロンに参加してくれている理由はさまざまです。
サロンメンバーKさん(神奈川県)
町田市で開かれた布博で【AND WOOL】さんのことを知りました。カシミヤストールのワークショップをされていたのですが、そのときは参加できず……。その後、オンラインサロンの存在を知り、取り組もうとされているプロジェクトに感銘を受けて参加することにしました。関東で行われるワークショップなどのお手伝いに伺わせていただき、スタッフの方たちのあたたかい対応や活動内容にさらに共感し、今に至ります。ワークショップのお手伝いなどに参加させてもらえて、すごくうれしいです。
サロンメンバーYさん(東京)
最初のきっかけはストールのワークショップに参加して、製品に触れてファンになったことです。それから、雇用創出などの新しいことに取り組まれている活動の方針に興味をもって、サロンメンバーになりました。在宅でできる仕事があるというのも魅力でした。商品ができるまでの過程がわかり、そこに自分が携われることが楽しいです。在宅で自分の都合に合わせてマイペースに仕事ができることもメリットに感じています。
サロンメンバーKさん(神奈川県)
手編みで家族用のセーターやポンチョなどを作っていて興味をもちました。そして、村松さんの考えや【AND WOOL】さんのコンセプトを知っていくにつれ、自分も何か携われたら幸せだろうなと感じました。子供たちも大きくなり、自分の時間が少しずつもてるようになってきたので、積極的に頑張っていけたらと思っています。編み機を使った作業のお手伝いができればと、今、個人練習中です。
サロンメンバーSさん(神奈川県)
毎回お仕事を完了する度に、「私が関わったこの商品が実際に誰かの手元へ行くんだ!」と、とても感慨深くなります。苦戦することもありますが、丁寧に仕事をした分、誰かが喜んでくれるような気がして、とてもやり甲斐を感じています。
オンラインサロンを始めた当初は、「編み機を触ってみたい」「手編みを趣味で楽しんでいる人とつながりたい」といったような、初心者の方が中心のサークル活動・部活動になるだろうなと思っていました。ところが、実際にはプロの作家さんや販売店さんたちが参加してくれていて、私たちもとても驚いています。そのおかげで、オンラインサロンでできることの幅も可能性も広がったような気がしています。
広島県で【yasasiibousi (やさしいぼうし)】という作家名で活動されている、ニット作家の落合直美さんも、私たちのオンラインサロンに参加してくれているメンバーのお1人です。
落合さんは、2015年からニット帽子作家として活動されています。自らの乳がん罹患で治療中に気に入った医療用帽子に出会えなかったことから、病気やその治療で髪を失った方にも、そうでない健康な方にも「肌にやさしい気持ちが上がるやさしいぼうし」を身に着けてほしいと、活動を開始されたそうです。
落合さん
元ニッターというかつての自分のスキルがお役に立てるのなら、という思いで【AND WOOL】さんのオンラインサロンに参加しました。製品制作は毎回緊張感を伴いますが、それ以上にやりがいも感じています。【AND WOOL】さんの目指しているものに、当初からとても共感しており、その一助となれているのであればとてもうれしいです。今後も続けていけたらと思っています。
私たちも、落合さんの【yasasiibousi】の活動やコンセプトに大変共感していて、作品制作に向かう落合さんの姿勢は本当にすばらしいなと思っています。素材を丁寧に吟味している私たちの糸も使ってくださっていて、先日は私たちのワークショップでも展示・販売などを行わせていただきました。
落合さん
「品質の高い作品を少しでもお求めやすく」と、素材の選定から作品制作、それらに付随する作業をすべてひとりで行っています。使用する素材は、【AND WOOL】さんをはじめとするメーカーさんのものの他、ニット工場でシーズンごとに大量に発生する「残糸」も積極的に使用しています。
●「ものづくり」にオンラインサロンを活用することの可能性とこれから
私たちのようなアパレルブランドには、これまでずっと「規格通りのものを、大量に作る」ということが求められてきました。その価値観は少しずつ変わってきていますが、すべてを手仕事で仕上げている【AND WOOL】のようなブランドにもまだまだ求められていることです。
少しでも規格に合わないものは「B品」扱いになり、正規では販売することができません。
世の中では「多様性」が叫ばれていますが、人それぞれさまざまな事情を抱えながらも、すばらしい個性をもっているのに、世の中の仕組みがこれに合っていないような気がします。
私たちが目指している「みんなを幸せにする」を実現するためには、どんな人でもそこに関わることができる仕組みが必要です。これまで培ってきたニットの専門知識によってそれを作ることができれば……、それが私たちの目指しているものです。
【AND WOOL】のオンラインサロンの活動は、そんな想いの一環で行っている活動です。今後もその可能性の輪が広がるように、活動を続けていきたいと思っています。
●【AND WOOL】オンラインサロン入会ご希望の方は、下記よりお申し込みいただけます。
▼▼▼
オンラインサロン入会申込み
●ニット作家落合直美さんの【yasasiibousi】の詳細は、下記をご覧ください。
▼▼▼
minnne:https://minne.com/@yasasiibousi
Instagram:https://www.instagram.com/yasasiibousi_/
Facebook:https://www.facebook.com/yasasiibousi