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就労継続支援B型事業所「こむぎ」管理者・渡邊里佳さんと生活支援員・池田佑美さんにインタビュー–【AND WOOL】の雇用創出プロジェクト–

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こんにちは。「& magazine:アンドマガジン」の発起人でファッションデザイナーをしている村松啓市と申します。このマガジンをご覧いただいて、ありがとうございます。

私は、静岡県島田市にアトリエを構えて、「muuc:ムーク」と「AND WOOL:アンドウール」という2つのブランドの運営をしています。2つのブランドに共通しているコンセプトが、「人の手から生まれるものづくりを大切にする」ということです。この「& magazine」を立ち上げて、ものづくりをする職人さんたちが自ら発信できる場を作ろうと考えた理由も、そのことにつながっています。

そして、私がブランドの運営と並行して取り組んでいることに、「雇用創出プロジェクト」というものがあります。様々な事情から外に働きに出ることが難しい人たちに、在宅ワークでできる仕事を提供する活動です。手を動かしてものづくりをする仕事を提供するとともに、私たちの製品製造の担い手となる職人を育てることも、この活動の重要な目的の1つになっています。

さらに「雇用創出プロジェクト」では、就労支援事業所さんに、適正価格での(極端に低賃金にならないような)お仕事を発注する取り組みも行なっています。

今回は特別企画として、現在私のブランドがお仕事をご一緒させていただいている事業所さんの1つ、就労継続支援B型事業所「こむぎ」で管理者を務められている渡邊里佳さんと、生活支援員の池田佑美さんにお話を伺ってきましたので、ご紹介したいと思います。

 

●自主製品の開発に積極的に挑戦する

こむぎさんは、特定非営利活動法人「こころ」というところが母体になっている事業所さんです。こころさんの中には就労支援事業所は5つあり、そのうち縫製作業や工業部品の内職作業などを主に行なっているのがこむぎさんです。

まずは、管理者を務められている渡邊さんに、こむぎさんについて伺いました。

【渡邊さん
私たちが一番大事にしているのは「個の尊重・人権の擁護・自己決定の尊重」です。これは法人の基本理念であり、日々の実践につなげていくために具体的にしているものが「ピア・カウンセリングの精神」です。

これは「私の前を歩かないでください。私はあなたの後をついていくことはできません。私の後を歩かないでください。私はあなたをリードすることはできません。肩を並べて歩いていきましょう。友だちのように。」という、フランスのアルベール・カミュの詞を訳したものです。

この実践理念が意味しているのは、ひと言で言えば「対等性」です。事業所のスタッフと事業所の利用者であるメンバーが、どちらも主体的になって一緒に取り組んでいきましょう、ということなんです。

精神障害に対する誤解や理解不足がある中で、言葉で普及や啓発を行うのではなく、実際にこむぎが作った製品などを通して、いろいろな人たちを巻き込みながら、みんなが住みやすい地域を作っていきたいと考えています。

こむぎさんは、外部の企業から外注されるお仕事を、いわゆる「下請け業務」として受けるだけでなく、積極的に自主製品の開発に取り組まれています。

僕たち「AND WOOL」でも、こむぎさんと一緒に商品開発をして販売していくようなものを、試行錯誤しながら考えているところです。

この自主製品の開発について、メンバーの方たちと一緒に現場で取り組まれている池田さんに、お話を伺いました。

【池田さん
自主製品の新商品を開発するときは、必ずミーティングを行いますが、このミーティングをやりましょうという第一声は、メンバーからの要望を受けて始まることが多いように思います。

外注でくるお仕事にはどうしても波がありますし、今回のコロナの影響もあって、今はかなりお仕事が減ってしまっている状況です。私がこむぎで働くようになってから、はじめて経験するような厳しい状況になっています。

そんな中で、どうやってお金を作り出そうか、自分たちで何かを作り出して売らないと、それなら自主製品を新しく作ろう、という感じで声が上がってきます。

それで、みんなでアイデアを出し合いながら進めています。

こむぎさんは、今回の新型コロナウイルスの影響で仕事が激減してしまい、現在とても厳しい状況になっているそうです。

ただ、コロナの影響に関係なく、自主製品に取り組む必要性と重要性を感じていらっしゃるそうで、それをどのように実現していくかが課題だと、渡邊さんはおっしゃっていました。

【渡邊さん
コロナの影響もそうですが、外からの外注のお仕事だけだと、どうしても周りに左右されてしまいます。

こむぎは運営が始まってから、まだ10年経っていません。その間に、利用者の数は増えていますし、一般就職する方も毎年いらっしゃいます。

利用者の方のそのような将来を考えたときに、ただ作業をこなして働くことができるようになるだけではなく、新しいものを作り出していく力を身につけてもらうことが大事だと思っています。

ですが、私たちも「ものづくり」に関しては素人なので、頭の中で考えたことをどのように実行したり再現したりしていいのかわからずに、次の段階につなげる手立てをもっていません。

そこが課題の1つだと考えています。

 

●もっともっと可能性を広げていきたい

2018年の春、僕たちはあるご縁があって、市役所の方や地域住民の方が集まる会合で、自分たちの活動について話をする機会をいただきました。その話を、そこに参加されていた市役所の方が、島田市の就労支援事業所の方々が集まる会合で話してくださって、そしてコンタクトをしてきてくれたのがこむぎさんでした。

【渡邊さん
先ほど、私たちが感じている課題についてお話ししましたが、まさに「AND WOOL」さんとの出会いで、そこに光が見えた感じがしています。

私たちは、「福祉」を全面に出すのではなく、市場で戦える製品を作っていきたいと考えています。

事業所としては、最初は下請け業務からスタートしていますが、その割合が多いままだと不安定さにつながってしまう。もっと自分たちで創造していく力、そして「AND WOOL」さんのようなところとコラボレーションしていく力が、これからは必要だと思っています。

そして、現場でスタッフとして日々メンバーさんとお仕事をされている池田さんは、こんなうれしいお話をしてくださいました。

【池田さん
縫製作業のお仕事は、主に女性がメインでやっていましたが、最近ではその状況がガラッと変わってきていて、男性の方も興味をもって取り組むようになっています。

これまでは、工業製品や部品などが作業の中心で、「AND WOOL」さんのようなお仕事はほとんどありませんでした。ビーズに糸を通すお仕事や毛糸を巻くお仕事は、メンバーみんな「ほんとにおもしろい!」と言って、飛びついてやっています。「こんなに楽しい仕事はない!」「もっとやりたい!」と言っています。

それを見ていて、私たちにも多くの気づきがありました。今まで知らなかったメンバーさんの個性や特性を見ることができて、「こんなことが得意なんだ」「こんな細かい仕事も根気強くできるんだ」ということを知ることができて、本当によかったと思っています。

「AND WOOL」さんとの仕事を通して、自分たちも含めて可能性が広がったような気がしています。

実は、こむぎさんの利用者さんのうちの何人かの方に、僕たちのアトリエに来てもらって、週に何回か通いながら仕事をしてもらう取り組みも始めようとしていました。実際に何回か来ていただいたのですが、その直後にコロナの問題が起こってしまい、現在は止まっている状況です。

就労支援事業所さんの利用者の方が、別の場所に通って仕事ができるようになることは、一般就職への大きなきっかけにもつながると考えています。ですから、僕たちもこれについては積極的に取り組みを進めていきたいと思っているのですが、作業場の設備や道具の問題、駐車場の問題など、並行して環境を整えていくこともやらなければならないので、これについては僕らにとっても今後の課題になっています。

 

●「シルバータグ」が雇用創出プロジェクトへの協力の「しるし」になるように

こむぎさんとは、出会いからこの2年間の間に、さまざまなお仕事をお願いしつつ、一緒に新しい商品を作ることができないかと、試行錯誤してきました。

その中で、今年の夏、開発した新商品が販売まで結びついたものがあります。それが、こちらのトートバッグです。

これは、この「雇用創出プロジェクト」の取り組みの中心となっている僕のニットブランド「AND WOOL」ではなく、僕がファッションデザイナーとしての活動をメインで行なっている「muuc:ムーク」というブランドの製品として販売しています。

バックは既製品で、ロゴのプリントは同じく地元静岡の信頼できる職人さんにお願いしてやっていただいています。そして、完成したバッグに「シルバータグ」をビスで留める作業を、こむぎさんにお願いしています。

バッグが売れれば売れるほど、こむぎさんにお仕事が発生する仕組みです。現在、この「シルバータグ」付きの商品は、こちらのトートバッグのみですが、ゆくゆくはもっと増やしていきたいと思っています。シルバータグの付いている商品を持つことが、僕らの「雇用創出プロジェクト」にご協力いただいた「しるし」になるような、ちょうど赤い羽根共同募金の「赤い羽根」のような役割を、このタグが果たせるようになればいいと考えています。

僕たちもこむぎさんもそれぞれに、課題をいくつも抱えている中でプロジェクトを進めている状況ですが、少しずつでもいい方向に進められるように、時間をかけて根気強く頑張りたいと思っています。

渡邊さん、池田さんありがとうございました!これからも、どうぞよろしくお願いします!

 

特定非営利活動法人「こころ」
ひとりひとりが地域で自分らしく暮らせるよう応援するために、さまざまな取り組み(相談、就労支援、居場所、普及啓発等)を多面的に行っています。「個の尊重・人権の擁護・自己決定の尊重」という基本理念のもと、誰もが安心して暮らすことができる住みやすいまちを作っていくことを目指しています。
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