日傘のはなし
2012年の春夏シーズンから、日傘の企画・デザインをしています。製造販売パートナーはオーロラ株式会社さん。国内の百貨店の1階にある傘売り場で展開されている品質の高い傘を扱っている、「傘のプロフェッショナル」の会社さんです。
はじめて傘の企画・デザインに挑戦したときは、非常に悩みました。もともと、糸から編みや織りによってオリジナルなものを作ることが得意で、それが私のデザインの特長でもあります。しかし、傘の場合、機能面を製品として成立するものにしなければならず、デザインにいくつもの制限が出てくるため、洋服のテキスタイルのデザインとは勝手が違いました。
そんな私を助けてくれたのが、日傘を気に入ってご購入くださるお客様や、オーロラのスタッフの皆様です。だんだんと自分らしいデザインができるようになりました。
【傘にほどこす刺繍のはなし】
私のテキスタイルデザインの特長は「植物の造形」をデザインに落とし込んでいることです。この表現手法を日傘のデザインでも行っています。実際に手を動かして刺繍を行いながら図案を作り、その図案を機械刺繍で再現するというもの。大変手間のかかる方法です。しかしそれによって、より立体的な表現ができたり、糸の不規則な動きで個性的なニュアンスを出せたり、手で作る図案が「特別な刺繍テキスタイル」を生み出すと考えています。手刺繍で作った図案をコンピューターを使って再現してくれているのは、生産現場のデザイナーさんや職人さんたちです。現場の職人さんたちの高い技術やすばらしいセンスの助けがなければ、この繊細な刺繍の傘は作ることができません。
【数千色から組合せを作る色選びのはなし】
毎回、色選びにはとてもこだわっていて、数千色の刺繍糸の中から、図案に合わせて組合せを選んでいます。色選びは、とても神経を使う集中力が必要な仕事です。私の頭の中にあるデザインをプロダクトに仕上げる上で、「色選びが命」だと言っても大袈裟ではありません。刺繍は立体的に仕上がりますから、光の反射や色の重なりによって見え方が変わります。そんな微細な色の変化も想像しながら、刺繍糸を選んでいます。時間がとてもかかる作業ですが、数千色の刺繍糸を目の前に、頭の中でイメージを膨らませる作業はとても楽しく、私は「色選び」をしている時間がとても好きです。
【絵画を描くようなデザインのはなし】
muucのブランドコンセプトは「服をキャンバスに 抽象画を描く様に 心の琴線に触れる美しさを追求する」です。ですから、日傘のデザインをするときも、傘をキャンバスにしてその上に絵を描くようなイメージで行っています。日傘は季節の商品なので、夏の風景に溶け込むように。日々のコーディネートのアクセントにもなるアイテムなので、さまざまなシチュエーションに合うように。「上品」で「特別」な印象を演出できるように。そして、お客様が日傘を手にした姿を絵画に描くように。デザインを考えています。
デザインのはなし
2021.08.13.
ファッションデザイナー
村松啓市