シルクのはなし
muucには「シルク100%のニットシリーズ」というアイテムがあります。muucのお洋服は、直接手に取って触れて目で見ていただかなけでば、そのよさを十分に伝えられないと、私は常々感じています。その中でも、実物を見ていただくことで多くのお客様がその品質の高さに驚かれる素材が「シルク」です。実際に目で見て手で触っていただかなければなかなかわかりづらい「シルクニット」のすばらしさについて、今回は私自身の言葉でお伝えすることに挑戦したいと思います。
【絹糸紡績のはなし】
この服の生地は、静岡県浜松市で染められて織られた「遠州織物」です。異なる色に染めた7色の糸を、シルクは、原料の品質によって明確なランク付けが行われています。その中でmuucのニットに使用したのは、絹紡(絹糸紡績:けんしぼうせき)用の原料の中でも非常に高いレベルの品質である「シルクランクA-1」のものです。ちなみに、さらに詳しく言うと、同じ「A-1」の中でも最高級のスライバー原料を使っています。
繊維が細く、繊維長もよく揃っていて、非常にしなやかで光沢が強く、ネップ(繊維が絡まってできるかたまり)やごみ等も極めて少ないシルクの原料を輸入して、それを愛知県一宮市の工場でさらに不純物を除去する工程に通してから、紡績の前紡工程に入れるためのスライバーに仕上げます。残念ながら、日本には絹紡工場がないので、もう一度国外の工場に持っていって紡績をした後、再度輸入して美しく艶やかなシルク糸に仕上げています。
【シルクのはなし】
シルクの優れているところは、上品な光沢がありしなやかで美しいという外観だけに留まりません。蚕を守る繭が原料になっているため、人の肌にも非常によい効果をもたらします。保湿性・吸湿性、さらに放湿性・保温性にも優れており、紫外線もカットします。静電気が起こりづらく、直接肌に着る服には非常にいい素材とされています。
また、シルクは無駄がない素材とも言われています。蚕の繭の部分はすべて、糸や綿などの製品にすることができますし、繭から抽出した「セリシン」は石鹸やコスメに利用され、蚕は農産物や家畜の飼料になります。蚕の餌になる「桑の葉」は無農薬で育てられます。蚕が農薬に大変弱いためです。シルクは人の肌にいいだけでなく、地球環境に与える負荷も少ない素材と言えるのです。その分、手間のかかる工程を経なければならず、素材として貴重なものになっています。
【シルクニットのはなし】
シルク100%のニットシリーズでは、シルクの美しさと肌触りの気持ちよさが活きるようなデザインを心がけました。muucのニットは、手を動かしながら模様編みの図案を考えるという「編み方からデザインする」方法をとっています。シルクには「美しい色を表現できる」という特長もあり、このシリーズの「マルチボーダーニット」では、編み込んだ模様編みを組み合わせることで、繊細な色の重なりを表現しています。福島県にある老舗のニット工場の高い技術をもった職人さんたちと一緒に、シルクのよさを最大限に引き出すデザインのニットに作り上げました。
さらに、「気持ちのいいシルクニットを日常のさまざまなシーンで着ていただきたい」という想いから、アンサンブルで楽しめるように、半袖のプルオーバーとカーディガンを作りました。シルクの光沢感となめらかな高級感でエレガンスな装いを演出しつつ、他の素材とは一線を画すシルクのすばらしい着心地を味わっていただきたいと思っています。
デザインのはなし
2022.09.07.
ファッションデザイナー
村松啓市