手芸家・洋輔さんにインタビュー

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こんにちは。「& magazine:アンドマガジン」の発起人でファッションデザイナーをしている村松啓市と申します。このマガジンをご覧いただいて、ありがとうございます。

私は、静岡県島田市にアトリエを構えて、「muuc:ムーク」というファッションブランドと、ニット専門の「AND WOOL:アンドウール」というセカンドブランドの運営をしています。これまで15年間、デザイナーとして活動する中で、手仕事によるものづくりのすばらしさを実感し、それをもっと多くの方に知っていただきたいという思いから、積極的に情報発信をする活動をしています。

その活動の1つとして立ち上げたのが、この「& magazine」です。このマガジンでは、私と同じように静岡を拠点に活動をする職人さんたちと一緒に、ものづくりをしている人間が自ら伝えることで、直接お客さんに自分たちの製品を届けられうようにしたいと思い、今年の2月から始めています。

大変ありがたいことに、立ち上げ以来、たくさんの方に協力したいと声をかけていただいています。そして、そのうちのお1人が手芸家の洋輔さんと、洋輔さんがパーソナリティを勤めている静岡SBSラジオの番組「サタデービューン」のスタッフの皆さんです。

今回は特別企画として、洋輔さんに手芸家としての活動や、ものづくりへの思い、静岡県御殿場市で育った子供の頃の話などを伺ってきましたので、ここでご紹介したいと思います。 

 

●人との会話から生まれる「ものづくり」

僕は、実際に手を動かして「ものづくり」をしている職人自らが、自分たちの仕事や作り出した製品について「伝える/届ける」ために情報発信をする必要があると思い、「& magazine」を立ち上げました。

洋輔さんはご自身の作家活動や作品の情報発信を、どのようにされているのか、どんなことに気をつけているか、などを最初に伺いました。

【洋輔さん
僕は今、InstagramとTwitterとブログの3つで情報発信をしています。「手芸家」としての活動を始めて今年で4年目ですが、ラジオやテレビのお仕事を始めた頃から、SNSでの情報発信を積極的に始めました。

とてもラッキーなことだったと思うのですが、ものづくりの仕事を始めたタイミングで、「話す仕事(ラジオやテレビの仕事)」をいただけたんです。それまで、自分の作品や活動について「どう伝えればいいか?」と悩んだことはなかったのですが、話す仕事をしている中で「どうやって伝えようかな?」「どうやったら響くのかな?」ということばかり考えるようになりました。

それが今の自分の作家活動に、とても役に立っていると思います。僕は手芸を教える教室などもやっていますから、情報発信に限らず、「伝える」ということは仕事の中でどうしても必要になります。

「話すこと」も「ものづくり」も、ある意味「特殊技能」だと思うのですが、この2つの組み合わせを同時にやることは、自分の性格にあっていたんだと思います。もともと、黙々と作業をやるような職人さんへの憧れは強かったのですが、僕はそんなタイプではなかったので(笑)

作品づくりでも、人とディスカッションしながら作り上げていくことが、昔から多かったです。周囲の人とのコミュニケーションを大事にしていました。煮詰まったときには、友達と飲みに行ったりして。話をしているうちに「これにしよう!」といいアイデアが思い浮かんだりするんです。それは今でも変わらないですね。

ちなみに、洋輔さんは最近、本の出版もされました。本当に幅広くご活躍されていて、1つ1つ丁寧に情報発信されているところは、僕も見習いたいなと思っています。とてもすてきな本なので、ぜひ皆さんも読んでみてください!

 

●「ラジオパーソナリティ」という仕事

手芸家として「ものづくり」のお仕事をされている一方で、ラジオパーソナリティという「伝える」お仕事をされている洋輔さん。実は僕も、3回ほど出演させていただいています。

洋輔さんとお話しさせていただくと、アーティストでありながら「話すこと」「伝えること」がとても上手で、毎回驚きます。洋輔さんは「ラジオパーソナリティの仕事はアーティストとしての活動にとても役に立っている」と言っていました。

【洋輔さん
ラジオの仕事のお話を最初にいただいたときは、「自分には絶対に無理だ!」と思いました(笑)「話すこと」にも自信がありませんでしたし、声にも自信がなかったんです。でも、リスナーの皆さんが「いい声ですね」と言ってくださったりして、少しずつ自信をもてるようになりました。ラジオのお仕事に関しては、本当にリスナーさんに支えられています。

リスナーさんのおかげで、リラックスして本番に臨めるようになって、「自分の自信のない部分も強みに変えていくことができるんだ」とわかりました。そしてそのことで、自信がもてなかったり苦手なことに取り組もうとしている人に対して、より優しくなれたような気がします。「何か手助けができないかな?」「背中を押してあげられないかな?」と考えられるようになりました。

例えば、僕のサイン会やイベントに集まってくれる方は、基本的に手芸が好き、作ることが好きな方たちが多いのですが、「ものづくり」が好きな人ってみんな少し引っ込み思案なところがあるんです(笑)僕に近寄ってこなかったり、何も話せなかったり。

そんなときは「普段はどんなものを作ってるんですか?」など、僕から話しかけています。そういうことができるようになったのは、ラジオパーソナリティの仕事のおかげだと思っています。

僕はテレビの仕事もやっていますが、「すてきにハンドメイド」という番組では、ゲストとして登場される方は、やはりものづくりをしている先生や作り手さんです。もともとあまりしゃべらない方もいますし、話すことに慣れていない方もいます。

すると、事前にいろいろな話をしてしっかりコミュニケーションをとっておくことが、とても大事になります。その上で「どうしたらこの人の良さが引き出せるかな?」「どうやれば盛り上がるかな?」と考えています。こういうことが自然にできるようになったのは、やはりラジオでの経験があったからだと思います。

洋輔さんがパーソナリティを務める、SBSラジオの番組「SATURDAY View→N:サタデービューン」には、スタッフの皆様にも僕らの活動に度々ご協力いただいていて、本当にありがたいです。

4月から新コーナーが始まって、静岡県内を中心に「ものづくり」をしている職人さん、作家さんなどを紹介しています。とっても暖かいラジオで、ほっこりとした気持ちになれたり、新しい情報も手に入ったりと、私も聞いています。

 

●静岡県御殿場市で暮らした子供時代

洋輔さんは静岡県御殿場市のご出身で、そこからフランスへ留学、現在は東京を拠点にして活動をされています。様々な場所での「ものづくり」経験をおもちなので、「地域性」と「クリエイター活動」についてどんなことを感じていらっしゃるのか、伺ってみました。

【洋輔さん
僕の過ごした子供時代を、今、改めて考えてみると、「平和を絵に描いたような暮らし」だったと思います。山に囲まれていて、動物たちがたくさんいて、オトンとオカンがいて、自然豊かな環境の中で子供たちは庭にパッチワークを広げてその上でゴロゴロしている、そんな暮らしでした。

「若草物語」の中に出てくるような、山の中でのキルトの暮らしに憧れていた母が、明るい色をたくさん集めてキルトをしていたので、周りにはいつも明るい色があふれていました。

もしも、子供時代を都会の街の中で過ごしていたら、僕はこんな性格にはなっていなかったと思います。手作りでものづくりをしたいとも、思っていなかったかもしれません。うちは芸能一家なので、周りが放っておいてはくれなかったと思いますから、こんなに自由にのびのびとした暮らしは送れなかったと思うんです。

御殿場の山育ちというのは、今の僕の作品にも、大きく影響していると思います。子供時代を自然の中で育ったことで、今でも自然との距離がとても近い感覚があるんですよね。

この歳になって、「幼少期に田舎暮らしをさせてくれてありがとう」と両親に対して心から思っています。

洋輔さんは、自然が好きで、旅をすることも大好きだとおっしゃっていました。海外のいろいろな街に出かけて美しい自然の風景を目にすることが、作品づくりのエネルギーにもなっているそうです。洋輔さんがプロデュースをした刺繍糸には、訪れた海外の場所をイメージした色を組み合わせて、世界の都市を色名につけたシリーズがあり、とても人気になっているそうです。

 

●まずは手を動かしてやってみること

洋輔さんの特徴的で美しい色使いの作風はどこからきているのか?ご自身の作風に一番影響を与えているものはなんなのか?伺ってみました。

【洋輔さん
僕の作品の色使いは、母親のやっているハワイアンキルト(パッチワークキルト)からきていますが、一方で「母親と同じことはしたくない」という気持ちもずっともっていました。

今は、母親と一緒に仕事をすることもありますし、僕自身、作品作りにおいては人とディスカッションすることをとても大切にしています。母親も含めて一緒にいる人たちの影響はとても受けていると思うので、一緒にいる人はちゃんと選びたいという気持ちが、常にありますね。自分がハッピーじゃないと周りもハッピーになれませんから。

僕は美しい山に囲まれた環境で育ちましたから、日本の自然の風景が大好きです。だから本当は、風景の刺繍をしたいと思っていました。でも、風景や植物は母親の得意なジャンル。それで、他のモチーフは何かないかと考えて動物にたどり着きました。子供の頃、僕の周りには、犬や猫はもちろん、アヒルやチャボ、インコ、リクガメなどのたくさんの動物がいて、僕は動物も大好きだったことを思い出して。

今のような作風にたどり着くまでには、いろいろな人の影響も受けましたし、もちろん途中で迷ったり悩んだこともありましたが、どんなことに対しても「まずは手を動かしてやってみること」だと思っています。とにかくやってみることで、見えてくることがあると思うんです。ずっと頭の中でだけ構想を練っているのは、時間がもったいないと思います。

この考え方にいたったことには、おそらくフランスへの留学経験が大きく影響していると思います。僕は、フランス語がまったくしゃべれない状態でフランスに行きましたから。

最初は、パンの買い方すらわからない(笑)それを、パンを買うところを想像しながら、「ここでこの単語がわからないとダメだな」とか「ここでのルールを事前に調べておこう」とか、そんなことをするのは時間の無駄じゃないですか。

それなら、パン屋さんに行って、わからなければ聞けばいい。それでもし自分のほしいパンが買えなかったとしても、それは全然いいんですよ。次に行ったときにできるようにすればいいだけです。

わからなかったら聞けばいいし、とにかく動かなければ何も始まらないということに気づけたことは、その後の自分にも大いに役に立った経験でした。

洋輔さんの作品づくりには、お母様からのいい影響がたくさんあるんだなと感じます。でも、洋輔さんが「母親と同じことはしたくない」と言っていた気持ちも、とてもわかる気がしました。

そんな思いを乗り越えて、洋輔さんはこんなすてきな鞄も作っています。パリで勉強したことと、お母様の影響を受けたパッチワークを混ぜて、「他にはないものが作りたかった」という洋輔さんの思いが詰まった、すばらしい作品だと思いました。

 

●「将来の夢は手芸家」と子供たちが言ってくれるように

話の最後に、僕が今回のインタビューで洋輔さんに一番聞きたかったことを伺いました。それは、将来やりたいことや、そのために今、挑戦してみたいと思っていることについてです。

【洋輔さん
「手芸家」という職業を確立させたいと思っています。子供に「将来何になりたいですか?」と聞いたときに「手芸家」と言ってくれる子が一人でも出るように活動していきたいと思います。そのために、「手芸家」が活躍できる場所を作っていくようなことも、先駆者としてやらなくてはいけないという思いもあります。

僕自身クリエイターですから、教えたり広めたりする活動だけではなく、もちろん自分の作品をたくさん作っていきたいですし、作りたいものもやりたいこともあります。でも、そういうことは、どちらも同時進行でやらなければならないと思っているんです。

これは「鶏が先か、卵が先か」のような話になってしまうのですが、結局、作りたいものを作っても、その価値が伝わらないことが今はとても多いような気がしています。「モノ」の値段のバランスがおかしい時代になってきているように感じています。

僕は職人さんへの憧れがとても強いので、誠実にものづくりをしている人が、正当に評価されなかったり生活していけなくなったりするのが嫌なんです。「モノ」が雑に扱われているのを見たりすると、悔しくてすごくイライラしてしまったりするんですよね。

どれだけ手間がかかっているのかが、わからない人たちが多いんです。伝わっていないだけかもしれませんが。そういう人には、手作りでのものづくりをやってみてもらうことが一番早いんです。自分でやってみれば、どれだけ手間のかかることなのかがわかります。

どんな「モノ」にも、いろいろな人の手がかかっています。いい「モノ」を生み出すことと同時に、それを知ってもらうための活動をやる必要があると思っています。それができれば、みんながもっと「モノ」に愛情をもってくれるようになると思いますし、「モノ」を大事に扱おうという気持ちにもなってもらえると思うんです。

こういう時代だからこそ、思いやりをもって行動しなければいけないような気がしています。日本を見つめ直すきっかけとして、ものづくりの文化に触れることから始めてもらえたらいいなと思います。

洋輔さんとは何度かお話しさせていただいていますが、僕と似ているところがあるなと感じることが多いです。「手芸家」という職業が、当たり前に子供たちがなりたいと思う職業になったらいいなと、僕も思うので、そのために協力できることがあればなんでもやりたいと思います。

実は最後の質問を終えた後、洋輔さんと話していた雑談の中で、もう1つ僕がとても共感した話があったので、ここに紹介しておきたいと思います。

【洋輔さん
手芸って「女性がやるもの」というイメージをもっている人が多いですが、基本的には手を動かして作る「ものづくり」なので、少しでも興味をもったら、年齢や性別に関係なく簡単に始められることです。だから、男性にももっとやってほしいと思っています。

実は、僕が手作りやものづくりをどんどん広めていきたい、特に男性にもっとやってもらいたいと思っている理由の1つに、「ほめられてほしい」ということがあります。

日本の文化って「けなす文化」なんですよね。あれをやめさせたい!(笑)例えば、「太ったね」とか「痩せたね」とか、体型のことを言う人がいますが、海外ではこういうことはナンセンスです。かと思うと、褒めることはしないんですよね。「今日のお洋服すてきですね」とか「そのアクセサリーすてきですね」とか、そういうことはなかなか言わない。特に男性はほとんど言いませんよね。

いいものを作って自分で持っていれば、褒められるんですよ。「その鞄どうしたの?すてきだね!」と。自分の作ったものをそんなふうに言われれば、うれしいはずです。

日本の男性に、もっと褒められる経験をしてほしい。人に褒められると、心にゆとりができます。すると、人に優しくなれます。それが広がっていけばこの国はもっともっと良くなるんじゃないかという、僕の勝手なイメージです(笑)だからそういうことも広めていきたいと、最近とても強く思っています。

 

洋輔さんのようなすてきな男性が「手芸家」として活動することは、手芸を幅広い人に楽しんでもらえるきっかけになると思います。僕も、手仕事のすばらしさを伝えたくて、全国各地でワークショップを開催してきたので、洋輔さんの考えに、とても共感しています。

これからの洋輔さんの活動を、僕もこの「& magazine」を通して少しでもお手伝いできればいいなと思っています。洋輔さんの活動を応援しながら、またこのマガジンでもご紹介させていただく機会があればと思います。

洋輔さん、ありがとうございました!これからもどうぞよろしくお願いします!!

 

手芸家・洋輔さん
静岡県御殿場市出身。幼いころから刺繍やパッチワークキルト、編み物などに親しむ。2010年にフランス・パリに留学。刺繍学校「エコール・ルサージュ」、モード学校「サンディカ・パリクチュール校」で、刺繍や服飾について学ぶ。2015年に帰国後、手芸家として雑誌やイベントで活躍。2017年度からは「NHK すてきにハンドメイド」の司会者、「静岡放送 SBSラジオ SATURDAY View→N」パーソナリティとしてもおなじみに。
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